研究成果2
(論文としてまだ未公表な成果もあります)
図 CLSVOF 法による粘弾性流体中を上昇する気泡の数値解析
(左):実験結果(ポリアクリル酸ナトリウム水溶液系) (右):数値解析結果
(左):実験結果(ポリアクリル酸ナトリウム水溶液系) (右):数値解析結果
粘弾性流体中を上昇する気泡は,弾性効果を受けて気泡下部が尖った形状(Cusp 形状)となる.数値解析は,粘弾性流体モデルとして FENE-CR モデル(ダンベルモデルの一種)を用いた結果で,気泡周りの弾性応力分布を示している.高弾性応力域(赤色)が気泡下部に集中しており,弾性応力による Cusp 形状となることが分かる
図 CLSVOF 法による ShearShear-thinning 性を持った粘弾性流体中を昇する気泡の数値解析
粘弾性流体中は,一般的には弾性特性と Shear-thinning 特性の両非ニュートン性を持つ.Shear-thinning 性は,剪断速度の増大とともに粘度減少する特性であり,FENE-CRモデルでは,粘度は剪断速度に依らず一定となっている.解析結果は,Shear-thinning性に対する Carreau モデルと FENE-CR モデルを結合したモデルによる解析結果で,気泡周りの粘度分布を示している.高粘性域(ゼロ剪断速度粘度-赤色)から気泡周りでは,粘度が大きく減少していることが分かる.右図は,左図より Shear-thinning 性を強くした結果で,粘度低下が左図よりさらに大きく(青領域),結果として気泡の形状変形にその影響が現れる.同時に弾性効果を受ているために Cusp 形状となっている.
図 アルカリ溶解性会合高分子溶液(HASE)中を上昇する気泡
これまで粘弾性流体中での気泡・液滴運動は,水溶性高分子溶液を用いて研究され,FENE モデルなどの粘弾性流体モデルも水溶性高分子溶液系で検証されてきた.先に示したように,水溶性高分子溶液中の気泡上昇運動は,流体力学レベルのモデルを使用して理論的にも説明がつく.一方,近年,工業的に使用されているHASE溶液中での気泡は非常に特徴的な形状となる.図は,本研究室で観察・発見した特徴的な気泡形状(気泡底部の拡大図)である.気液の密度や粘度の差を考えれば,イメージしにくい現象であり,従来の粘弾性流体モデルで説明できない.見掛けのレオロジー特性変化は,水溶性高分子溶液と同じであり,むしろ非ニュートン性は小さい特性を持つ.それにも関わらず,上記の特異な形状が出現(特異な弾性効果が発現)することは,非ニュートン流体の制御を考えると,レオロジー特性からは流動特性を予測できないことを意味する
図 アルカリ溶解性会合高分子(HASE)中を上昇する気泡に発現するマイクロスケール構造
(左):実験結果 (右):数値解析結果
(左):実験結果 (右):数値解析結果
HASE溶液中での気泡は非常に特徴的な形状となるが,特徴的な形状部の気液界面においてマイクロスケール構造が発現する場合がある.本研究室では様々なタイプのマイクロスケール構造を発見しており,図はその一例である.これからのマイクロスケール構造は肉眼では観察できず,樹枝状形状を形成するのが大きな特徴である.マイクロスケール構造は,気泡運動中はその形状を維持する.HASEが,気相分子に直接作用することで発現する非常に特徴的な現象であると考えている
図 VOF法による Shear-thinning 流体中におけるに液滴生成過程数値解析
Shear-thinning 流体中にノズルからオイル液滴(ニュートン流体)を流入させた様子の数値解析で,液滴生成挙動と粘度分布を示している.上段は,ゼロ剪断速粘度一定で解析を行った場合(ニュートン流体系),下段は Shear-thinning 性を考慮した解析である.Shear-thinning 流体系では,液滴周りで非常に大きく粘度が減少し,その結果,小さい液滴が連続的に生成するようになる. ニュートン流体系では,長いジェットを形成し,先端より液滴を生成する
図 Moment of Fluid (MOF) 法による Shear-thinning 流体系剪断場における液滴の変形・分裂現象の数値解析
(上):ニュートン流体系 (下):Shear-thinning 流体系
(上):ニュートン流体系 (下):Shear-thinning 流体系
下の壁が左右逆方向に動いており,剪断場が系内に形成されている.密度比 η (= 液滴密度/周囲流体密度) = 1 とした条件で,系内中央に置かれた液滴は剪断の影響で変形を始める.この現象は,Re 数,Ca (Capillary) 数,粘度比 κ (= 液滴粘度/周囲流体粘度) で整理され,ある臨界条件になると液滴は分裂に至る.左図は,Re = 10,Ca = 0.2,κ = 1 の条件で行ったニュートン流体系での解析で,この場合,液滴は分裂に至る.右図は,見掛けの条件を Re = 10,Ca = 0.2,κ = 1 として周囲流体に強い Shear-thinning 性を持った流体とした場合である.Shear-thinning 性が現れると,有効(実効)無次元数としては,Re 数 → 大,Ca 数 → 小,κ → 大 となる.その結果,液滴は分裂せずに変形状態で定常となる.なお,図の色は粘度分布をなっており,左図は粘度が一定であることを示す.右図は左図と同じ粘度値のゼロ剪断速度粘度を持つが,強制的に剪断場を作っているために全体的に粘度が低下(赤色 → 青色)し,液滴周囲で粘度低下が大きくなっている
図 MOF 法による Shear-thickening 流体系剪断場における液滴の変形・分裂現象の数値解析
(上):ニュートン流体系 (下):thickening 流体系
(上):ニュートン流体系 (下):thickening 流体系
Shear-thinning 流体系剪断場での液滴の変形解析と同様の系で,周囲流体を Shear-thickening 流体(剪断速度の増大とともに粘度が増加する) として解析を行った結果である.右図は,Re = 10,Ca = 0.15,κ = 1 の条件で行ったニュートン流体系での解析で,この場合,液滴は変形して定常となる.左図は, Shear-thickening 系での解析結果で,見掛けの条件はニュートン流体系と同じである.Shear-thickening 性が現れると,有効(実効)無次元数としては,Re 数 → 小,Ca 数 → 大,κ → 小 となる.その結果,液滴は変形・分裂に至る.なお,図の色は粘度分布をなっており,右図のニュートン流体系は,粘度が一定であることを示す.左図は右図と同じゼロ剪断速度粘度を持つが,強制的に剪断場を作っているために全体的に粘度が増大(青色 → 赤色)し,液滴周囲や液滴先端で粘度が増大している様子を表している
図 紙容器への牛乳充填過程の数値解析
図は紙容器へ牛乳を充填する過程の VOF 法による三次元数値解析結果である.牛乳充填過程では,紙容器を牛乳流入ノズルまで押し上げ,牛乳の流入開始と同時に紙容器を押し下げながら牛乳を充填する.図はその際の時系列挙動である.牛乳は純粘性 Shear-thinning 流体であり,粘度特性を実測し Carreau-Yasudaモデルでモデル化して解析では考慮している.解析結果は 3 つの図がセットとなっている.左より (1) 中央断面での粘度分布 (赤:高粘性域 青:低粘性域),(2) ベクトル図 (黄:気相 水色:液相),(3) 気液界面の等値面 である.牛乳は気泡を巻き込みながら非常に複雑な流動場を形成し充填されていることが分かる.容器内の粘度分布は局所的に大きく変化しており,牛乳の Shear-thinning 特性は牛乳充填過程において無視できないことが分かる.
図 格子ボルツマン法による固体障害物を横切る非ニュートン流体流れの数値解析
図は円柱障害物を横切る Shear-thinning 流体流れを格子ボルツマン法により解析を行った結果である.粘度分布と流れ場を示しており,赤が高粘性域,青が低粘性域となっている.障害物周りで粘度が大きく低下しており,障害物の背後でカルマン渦の発生が見られる.非ニュートン流体流れで問題となるのは,局所変化している系に対して,どのように無次元数を定義して,現象を整理するかである.本研究の最終目標は,対象系での Re 数の定義(有効 Re 数)を検討し,実用的な Re 数を提案することである
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